代表挨拶

身体を動かすことが苦手だった私は、はじめてダンスに出会った時「身体を動かすって、こんなに楽しかったんだ!」と思った。ダンスとはほど遠い動きをしながら、この理屈抜きに楽しいという感情は、当時落ち込んでいた私の心を十分に癒し、力づけ、ダンスの道へ方向転換させるきっかけとなった。ダンスが私に与えた変化は何によるものなのか?脳内にイメージした動きを,音や動きにあわせ創り出すといった満足感と開放感、一見難しいと思われる動きを繰り返し練習しながら記憶に留め,コントロールしていくといった達成感が私の中に起こり変化をもたらしたように思う。ダンスが認知機能を使い、同時に快感情も伴う身体活動であることが脳科学研究からも明らかになってきている。この脳機能全般にわたる働きを促しながら,個人の能力に関係なく,老若男女,誰もが楽しめてしまうダンスをリハビリテーションに使わない手はない。今後、疾患の特徴にあわせ、指導者が対象者に投げかける言葉,使用する音楽,動き,空間など様々な要因について,ダンスの治療的要素を生かしたニューロダンスを皆様方とともに考えていけたらと思っている。そしてより多くの方が様々なシーンで使えるニューロダンスを作成したいと考えている。どうかよろしくお願い致します。

森ノ宮医療大学 医療保健学部 作業療法学科   橋本弘子

 

ダンスや踊りは、作業療法や音楽療法といったリハビリテーション場面だけでなく、ダンスや踊りを行ったことがない人はいないほど、私たちの文化に馴染のある活動です。近年、ワシントン大学のHackneyらは、タンゴがパーキンソン病を持つ対象者の動きの改善に効果があることを示しました。これらの研究に触発され、人々の馴染のあるダンスや踊りを、日常生活の中で治療的に使えるならこんな良いことはないと私たちは、ダンスを取り入れたリハビリテーションの方法論について研究を始めました。そして、ダンスを対象者に適応するのではなく、対象者の病態や動作の難しさに合わせた治療的な意味を持つダンスを制作しようと考えるに至ったのです。本研究会は、ニューロ(神経)ダンス研究会と命名しました。名前の背景には、神経科学の成果を取り入れたダンス制作の過程に挑戦していきたいという思いがあります。対象は、脳血管障害、パーキンソン病、統合失調症、発達障害、認知症..を持つ対象者です。今後、多くの皆様方のご意見を参考にして、日常生活の中で、毎日取り入れて行きたいと思ってもらえるようなニューロダンスを制作していきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

広島大学大学院  宮口英樹

 

ニューロダンス制作きっかけの一つは、大阪府立大学および大阪府作業療法士会のメンバーがパーキンソン病患者、家族の会「堺のびやかクラブ」の協力を得て行ったインタビュー調査です。調査の結果、当事者の方々には歩行以外の場面でも様々な困難が生じていること、そして、運動イメージと視覚情報の重要性、注意配分の不得意さ、身体図式の脆弱性、心理・感情の被影響性など、当事者に共通する特徴が明らかになりました。この頃、「堺のびやかクラブ」の当時の会長さんから「海外で効果が認められているダンスを自主活動に取り入れたい」との申し出があり、プロのダンス指導経験もある橋本弘子氏と広島大学宮口研究室の方々とも協力し、先に示した特徴を勘案したダンスプログラムを制作、実施したのです。ダンスは当事者の方々に好評でその効果は明らかでした。現在、ダンスの適用をパーキンソン病だけでなく認知-行為過程に困難を示す方々へと広げつつあります。どうぞニューロダンスを経験し、日々の活動に取り入れてみてください。そして、様々なフィードバックをいただければ幸甚です。

大阪府立大学大学院 総合リハビリテーション学研究科 高畑進一